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大学入門──じつはよくわかっていない人のための大学・学問・学部の説明そして経済学部への招待

はじめに

みなさんが大学について最初に考えるのは中学3年生の高校受験のときでしょう。高校選びのさいに、みなさんはおそらく初めて大学というものを意識すると思います。でも、いったん高校に入ってしまうと、大学のことなんか忘れてしまって、日々の高校生活に没入してしまうものです。そんな人が「そもそも大学ってなんだ」と疑問に思うと同時に「とくにやりたいことないしなあ」という自分を発見するとき、手がかりになるものが意外にありません。そこで、このページでは、そのような疑問に答えてみようと思います。中学3年生にもわかるように、かんたんに、短く、そしてちゃんとした入門です。途中までは、どの大学でも通用します。アルゴリズム(思考の道筋)としては全編をひとつの事例として参照できます。

全体は4つのパートに分かれています。
1 大学入門
2 学部入門
3 経済学部入門
4 国学院大学経済学部入門

文責・制作は経済学部入試委員会の野村一夫・国学院大学経済学部教授です。

1 大学入門

大学は特定の目的を持った組織です。その目的は、おおよそ3つのミッション(使命・任務)として整理できます。

大学以上の教育のことを「高等教育」と呼びます。高等教育は、おもに知的専門職を養成するための機関です。知的専門職とは、たとえば医師・弁護士・会計士・税理士・建築士のような高度な専門知識と技能をもつ仕事のことです。

第2に、大学のミッションは「学術研究」です。大学の先生は基本的に「研究職」になります。大学は学術研究を推進するという社会的役割を担っています。

第3のミッションは、教養ある市民を養成することです。「教養とは何か」に正しく答えるのはむずかしいですが、「教養ある市民」は、かんたんに言うと、幅広い知識をもち、議論に参加できる能力をもつ人のことです。そういう人が民主的な社会を支えるのです。もちろんさまざまな分野での教養があり得ますから、全能である必要はないのですが、どんな分野についても質問ぐらいはできるような人になってもらうことです。専門学校が職業に直結した勉強にしぼっているのに対して、大学はじつは専門外の知識も学ぶところなのです。専門学校は、言わば「職人さん」「○○のプロ」を養成するのに対して、大学はそういう人たちをつないでプロジェクトを企画・設計・采配する人たちを養成します。どっちがエライかということではなく、それぞれ役割があるのです。

大学の教員は、教授・准教授・助教・講師といった役職になっています。ここでは、まとめて「大学教授」としておきましょう。大学教授のお仕事は4つあります。研究・教育・校務・社会活動です。大学では「研究」が第1です。教育職というより研究職なんです。大学教授はなによりもまず「研究者」でなければなりません。だから大学教授は何かにつけて「研究業績」が問われます。研究業績のある研究者が学生を教育するというのが大学教育の基本です。

その上で、大学という組織の運営にも深く関与しますし、社会活動もおこない社会に貢献するというのも仕事のうちです。「大学教授はヒマそうだ」と思われがちですが、じっさいには、かなり忙しい先生たちです。

2 学部入門

大学教授の先生たちは、何を研究しているのでしょう。まずは、いきなり研究の現場でのテーマ領域をざっと眺めてみたいと思います。

現在進行形の研究領域は以下の表のようになっています。外部サイトのPDFに直行するので、見たあと、バックしてこのページに戻ってきて下さい。さあ、行ってみましょう!

「科学研究費細目表」(日本学術振興会)PDF

いかがでしたか? ほんとにいろいろあるでしょう。これが現在進行形の研究分野です。

では、これらをざっくりと説明しましょう。

正確には「学術研究」と言いますが、ここでは、かんたんに「学問」と呼ぶことにします。学問は、おおよそ4つに分類できます。

人文学、社会科学、自然科学、複合領域。学問は、だいたいこの4つに振り分けて理解できます。複合領域というのは、これらの学問が相乗りして研究している新しい分野です。たとえば現在の「情報学」は、たんなる情報処理研究ではなく、社会や文化の問題も取り扱います。「文理融合」と呼ばれることもあります。

では、学部とは何でしょう。わかりやすい学部から確認していきましょう。基本は、たったふたつです。研究直結型か、職業直結型かです。

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研究直結型として区別した学部は、職業選択としては「研究者」と「教員」を養成するように編成されている学部です。じつは、職業直結型の学部も「研究者」と「教員」を養成するのですが、それが第1の任務ではありません。あくまでも特定の職業人になることを想定して勉強します。ですから就職率のようなものは職業直結型学部の方が断然高くなります。特定の資格をとって専門職に就職するケースが多いでしょう。

さて、問題は、こんなにはっきりとした性格をもたない学部です。ここでは「中間的な学部」と呼ぶことにします。この場合の「中間的」というのは、けっして悪い意味ではありません。むしろ積極的な意義さえあります。そこを理解しておかないと、適切な学部選びはできないと思います。中間的な学部には2種類あります。

学問研究は4種類に分けられると述べましたが、研究現場では急速に複合領域が拡大しています。それに対応した学部が近年いちじるしく増加しています。文系と理系の区別なしに勉強する学部もありますし、伝統的な学問を横断して作られた学部もあります。環境、インターネット、戦争、女性、差別と格差、カルチャーなどの研究がそれにあたります。その意味では先端的な学部と言えるでしょう。ただし、見込みちがいの学部もあるかもしれません。社会に需要がなければ、存続はむずかしいという側面があります。

もうひとつは、むしろおなじみの学部です。ここでは経済学部・経営学部・社会学部を挙げておきましたが、ほかにもあるでしょう。法学部というメジャーな学部もここに入れていいと思いますが、とくに法律的思考ができるようになるので公務員に向いているとされています。でも、じっさいにはさまざまな職業に就きます。このように、これらの学部をでると何か特定の職業に就けるというイメージがありません。だいたいビジネスに関連する学部という認識でしょう。「半分は学問的、半分は実務的」という感じです。

だからでしょうか、「むずかしい勉強はいや。だけどガチガチの職業訓練はしたくないし、どんな職業に就きたいかわからない」という消去法で学部選びをしていくと、たいていこれらの中間的な学部に行き着きます。ま、それでいいのです。中高生がもっている仕事についての知識なんか、ほとんど妄想かファンタジーなので、見極めのできる大学生になってからでも遅くはないのです。

でも、ここで確認しておきたいのは、これらの中間的な学部には重要なミッションがあるのです。それは明確に言われることが少なく、ほとんど強調されていません。それは、なぜかはわかりません。私は系列高校やオープンキャンパスでの学部説明会のために答を探しました。今は授業でも学生たちに何度も言います。

それは一言で言うと「つなぐ仕事」なんです。

では、何をつなぐのかというと、5種類のことがらです。

組織

情報

お金

たとえば、営業職というのがあります。一般に「営業」と呼びます。これは何をするのかというと、会社と会社をつないだり、会社とお客さんをつないだり、お客さんと職人さん(または専門職)をつないだり、情報とお金をつないだりします。組み合わせはいろいろです。たとえばプロジェクトとかコーディネイトとかイベントなどと呼ばれる出来事を企画して、さまざまな人・物・組織・情報・お金をつなぐのです。「つなぐだけ」と思うかもしれませんが「つなぐ人」がいなければ「飛騨の職人さん」も「一級建築士」も「コピーライター」も「カメラマン」も「アーチスト」も仕事になりません。この複雑な社会の中で、それらの人たちを出会わせる人たちが必要なのです。ちゃんと適切に「つなぐ人」が、無縁な職人さんや専門職の人びとを創造的なネットワークに組み入れるのです。これはこれで「片手間」ではできません。

「つなぐ人」に必要なのは、ほどほどの研究とビジネス志向と教養と都会的センスです。「ほどほどの」はすべてにかかります。具体的に経済学部のケースを説明しましょう。

3 経済学部入門

というわけで、ここからは経済学部のケースに限定して進めていきます。他の学部にも大なり小なり同様のことが言えますが、経済学部においては典型的な問題です。ここをわかってないと経済学部に入ってから目標を失います。

経済学部で何を学ぶのか。それは「つなぐ人」になるために必要な勉強です。その勉強には、およそ5つのジャンルがあります。

1 経済学研究。経済学はもはや資本主義の一部です。経済学の専門知識はビジネスを展開する上では必須です。

2 ビジネス研究。こちらは、もっと具体的な知識です。企業を固有名詞レベルで語れるようにしておかないと、つなぐにつなげません。

3 お金の世界。何ごとにもお金の問題はつきまといます。失敗もよくある世界です。しくみを熟知してきましょう。

4 特技。ここに挙げたような特技があれば、そこから何かが拓けることがあります。何か1つはもっていたほうがいい。

5 都会的センス。やはりこれがないと「つなぐ人」にはなれないと思います。視野の広さ、人当たりの良さ、身軽さ、予測の適切さ、ネットワークの広さなどがあります。地方の大学でも、先生たちはたいてい都会ぐらしの経験があるので、そういう先生たちから学べばいいし、しょっちゅう都会の空気とふれることです。

ほんとうは、これに法律的思考を入れたいところです。秩序ある社会は法律に則して動いていますから。でも、法律の世界はなかなか奥深いのでトレーニングが必要です。経済学系の人は、チームを作るさいには法律のわかる人を入れておいた方がいいでしょう。

 

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じつは日本の経済学部には2種類あります。これはとても重要なことなのに、多くの受験生や親世代はランキングとか偏差値とかブランド・イメージで志望大学を決めてしまいがちです。ここはちゃんと区別して受験しましょう。

1 近代経済学の体系に即した理論的な経済学部

大きな大学ですと、たいていこちらです。経営学部や商学部のような実務的トレーニングを任務とする学部と区別した上での経済学部です。こちらの場合は、かなりアカデミックです。理論重視、専門性、分析能力などが特徴です。「近代経済学を学ぶ学部」です。

では「近代経済学」とは、どんなものなのでしょうか。ふたつの代表的な教科書の目次を見てみましょう。

このように近代経済学は高度にアカデミックです。こういう知識が必要な世界があるのです。社会のエリートや大企業の幹部には、このような知識が必要です。そういう志を抱いている人は、ぜひ近代経済学の世界に飛び込んで下さい。

ただし、最近大きな議論になったことがあります。「経済学教育は、近代経済学だけではなく、制度的アプローチや歴史的アプローチや多様な経済思想をふくむべきである」という考え方です。近代経済学中心の経済学部でも、何回かのカリキュラム改革によって少なくない軌道修正をしている経済学部もあります。

2 実践的で総合的な経済学部

もうひとつの経済学部は、実践的かつ総合的な学部です。他の大学で説明するわけにはいきませんから、ここでは国学院大学経済学部のケースを例として説明します。

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構造としては、だいたいこんな感じの経済学部です。基本は経済学と経営学の組み合わせ。それに新領域を加えて構成されています。これは日本の大学に特有の経済学部かもしれません。日本に経済学部がたくさんあるのは、経済発展を主軸にすえた政治が続いてきたからで、経済学部はそれを担う人材を育成するためにたくさん作られたのです。お隣の学問ともいうべき社会学や人類学の学部がとても少ないのと対照的です。

国学院の場合は、経済学科でさえも実質的に「経済学教育は、近代経済学だけではなく、制度的アプローチや歴史的アプローチや多様な経済思想をふくむべきである」という路線で進んできました。チャートの経済学科のかっこの中の「経済学の理論と歴史と動向」と書いてあるのも、より正確には「経済学の理論と、経済の歴史と、近年の日本と世界の経済の動向研究」ということです。さらに他の学科の専門科目もすべて履修(りしゅう)できるようになっています。ただし、この考え方には賛否両論あります。アカデミックな近代経済学の立場からすると「これは経済学ではない」という科目もたくさん設定されています。それは「どういう人になってもらいたいか」に強く関係します。これから国学院大学経済学部がどの方向に行くのかも、この点にかかっているのです。

さて、ここでも「中間的」性格はあきらかです。「ほどほど」というのが利点でもあり弱点でもあります。ここをちゃんと押さえて選択しましょう。

5 国学院大学経済学部入門

最後に本学の特徴を説明しておきましょう。本学に関心のない方は、ここでさよならです。グッドラック!

一般に、大学選びはキャンパス選びになります。キャンパスを選ぶのです。大学のランキングや偏差値などで機械的に決めると後悔します。と言っても「都会にあればいい」とか「豊かな自然環境」とかで決まるのではありません。

行きたい学部が決まったら、あとは教養科目の問題になります。案外、ここはアピールされないところですが、大なり小なり「つなぐ人」になる場合は、教養が重要なのです。そして、教養科目の豊かさは、キャンパス単位でだいたい決まってしまうものなのです。私自身、さまざまなキャンパスの教養科目を担当してきましたから、そのちがいについて半日は語れます。ま、ここではかんたんに要点だけ。

「学部ごとに分散しているキャンパス」「多くの学部が集中しているキャンパス」とは、かなりちがいます。専門科目ではなく教養科目がちがうのです。「分散キャンパス」だと、キャンパスごとに教養科目の先生を配置しなければならないので、当然、限定された科目になります。たいていは非常勤講師・兼任講師と呼ばれる先生たちが担当します。語学なんかは典型的です。それに対して「集中キャンパス」には多様な先生たちがいるので、都合がつきやすいのです。もちろん大学によります。

国学院大学の渋谷キャンパスの場合ですと、巨大な文学部がありますので、経済学部でも人文系の分厚い教養科目が山ほどあります。しかし、根っこが人文系なので理系科目にはとても弱いところがあります。かえって経済学の先生には数学がやたら強い先生たちがおられて、その先生たちが補っていたりします。情報科目については、特技のひとつとして昔から強化してきました。情報科教職課程があるほどです。各大学は、こういう工夫をしているはずです。そこをちゃんと見ましょう。

この写真は、ファッションのセレクトショップであるシップスの40周年のポスターです。国学院大学経済学部は渋谷キャンパスにあります。だからシップスと同じ「渋谷育ち」です。キャンパス周辺は文教地区なので学校と住宅と神社があるばかりです。渋谷区東という地名なので、私は勝手に「シブヤイースト」と呼んでいます。

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国学院大学のプロジェクトに「渋谷学」というのがありまして、2015年に『〈渋谷らしさ〉の構築』雄山閣を経済学部のスタッフ中心で書きました。そこでは「広域渋谷圏」という言葉が使われています。渋谷とその周辺をそう呼びます。シブヤイーストはその「ドーナツの穴」のようなところです。丘の上なので、いったんキャンパスに来ると、あとは全部下りで広域渋谷圏に歩いて行けます。場所的には、そこが取り柄です。経済学部はこのメリットを共有しています。

今ご覧のこのサイトは、大学の公式サイトとは別に作った経済学部のサイトです。それに加えて、さまざまな用途で使われているサイトもあります。KGI.TOKYO.JP です。ふだんの様子がうかがえると思います。

というわけで「大学入門」は終わりです。他の大学のことを詳しく述べるわけには行きませんから国学院の話になりましたが、これと同様のアプローチで大学選びや学部選びをされると、それなりに自分の道が見えてくると思います。ですから、このページで説明した「アルゴリズム」(考える道筋)を自分なりに適用してみて下さい。大学は本来、個性的な存在です。歴史があり、人がいて、積み上がった無形の文化があるはずです。そこに注目して、自分の進路を考えて下さい。それから最後に一言。本学経済学部を志望する人は、以上のことをちゃんと承知して来てくださいね。では、グッドラック!

執筆は野村一夫・国学院大学経済学部教授でした。